私の小さい頃のお正月は、3ヵ日とも、町が死んだように静かだった。
今と違って、開いているお店なんて1軒もない。
もちろんママのお店も休みだ。
私はこの静かなお正月が大嫌いだった。
近所の友だちとも遊べない。
お年玉も常日頃から人にお金を貰っていた私にとっては
全く特別なことではなく、嬉しくなかった。
でもこのお正月だけは、母は私と遊んでくれた。
ゲームの相手を何回もしてくれた。
何回も、何回も
小さな子ども相手のゲームなんて母にとったら退屈なことだったと思う。
それでもずっと相手をしてくれた。
そのことだけがお正月の楽しみだった。
いくつの時だっただろう。
父母が自分たちのお店を閉めて、
父がサラリーマンをしていた時だから、
私が小学校の低学年の頃だったと思う。
お正月だと言うのに、父が出社しようとしている。
会社の工場でトラブルが起きたのだとか。
泊まりになるとか。
そんな父を、母は心配そうに、
そして休日出社を気の毒そうに見送っていた。
私は小さかったのに、この時のことを鮮明に覚えている。
そして大人になって思った。
この時父は会社になんか行ってないと。
女の人と旅行に行ったのだ。
何の証拠もないが、
結婚して旦那に浮気ばかりされていた女の勘だ。